たとえば、もう何回通ったか分からない駅までの道を歩く時。
今まで何の気にも留めなかった家々が、ある時から急に気になったり。
「あのベランダいいな」
「ここの玄関の雰囲気が好き」
「あそこの窓は大きくて明るそうだ」
「ここの猫は毎回私の顔を見て逃げる」
そんな事を繰り返すうち、次第に出来上がるあなたの理想の家のイメージ。
街はそのままあなたの住宅見本帳です。
光少なくとも愉しみ多し。
転校してきたお金持ちのA君の家は、窓が少ないスタイリッシュな外観の新築で、軒先に干し柿を吊るす近隣の農家の中では異彩を放っていた。
「あれはなんだべ…」
みな好奇の目で見ていたけれど、わたしはその洗練された外観が好みだった。
「中はどうなっているんだろう…?」
先日30年ぶりに同窓会で会ったA君に、そういえばさあと切り出すと、
「あれね!親父が趣味でモヤシ栽培始めるって言い出した結果、ああいう家になってさあ!」
ますます窓の少ない家が気になる今日この頃。
相乗効果。
古いものと新しいものの融合。
随所に古い建具を残す事で、親しみやすさと温かみ溢れる仕上がりのこの御宅。全てを新しくするのではなく、馴染んだパーツがある事で得られる安堵感。
これは喩えていうなら、おろしたてのシャツにお気に入りの古着を合わせる事だったり、フレッシュチーズとヴィンテージのワインだったり、炊きたての新米にのせる古漬けだったり、元カレと今カレが鉢合わせするような事だったりするようなしないような。
そんなスリリングなマッチングにわくわく。
いいとこ取り。
こちらの素敵カフェはなんとご自宅の一角。
「お店もやりたいし、家も欲しい!」
そんな方にとっては、まさに究極のカタチではないでしょうか。
カフェといえば、外観が似ているが故に「新しいカフェかと思って近づいてみたら美容院だった」という事案が頻発している昨今。いっそのこと一緒にしたら両方のお客さんを取り込めるのでは、と要らん事を考える。
「コナコーヒーください」
「ヘナコースは予約制です」
「あとワッフルをひとつ」
「ワックス軽くつけときますねー」
業務提携はまだ時期尚早のようだ。
スクエアハウスの夢。
「いつか見てろよ」
それが口癖の男は、卒業後ニート生活へ。
いつも行くゲームセンターの帰り道にその家はあった。見る度に「ここに長い棒が来てくれれば一気に消せるのに…」そんな事ばかり考えていた。
半年後、ガルバリウムの無機質さとラインをそろえた窓のスマート感。そしてガラスブロックからは温かな生活の彩り。そのカッコ良さに気づいた頃には、テトリスはやらなくなっていた。
「長い棒は待っていても降って来ない。」
男はひげを剃ってそれから履歴書を書いた。
消すだなんてとんでもない。
すべてが絶妙なバランスの世界。
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ライター/writer kotoda