小さな美術館。床の間で見る、床の間をみる

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「そもそも国に哲学がないというのは、あたかも床の間に掛け物がないようなもので、その国の品位を落とすことから免れられない」と中江兆民は言っています。日本に哲学がないのかは別として、床の間はその主人の品位のいかほどを示すものであるということはわかります。その家の主人が何を考え、何を飾るのかでその家がどういったものかが会見えます。今回は、現在の日本の住宅における床の間のあり方を見ていきましょう。

黒が引き締まった印象を与える、モダンな和室

縁なし畳の市松模様に、縦に伸びる黒い建材。和モダンの典型のような和室です。床柱の中心に和紙を貼ってアクセントを効かせています。障子は外へ繋がるものではなく、間接照明を仕込んだもの。花は飾られていますが、まだ掛け軸は飾られていません。これだけモダンな空間に仕立て上げたなら、掛け軸でなく、小さな油絵などの絵画でも空間構成は成り立ちそうです。畳や白木は経年変化で、徐々に色を変えていくので、それを視野にいれた構成にしても面白そうですね。

歴史を引き継ぎ、侘びを極める茶室

裏千家の代表的な茶室「又隠(ゆういん)」をモチーフにした茶室です。その又隠も、もともとは利休の草庵風をモチーフにして作られています。侘びを極めた利休を引き継ぎ、さらに侘びを極めた又隠の特徴は、楊枝柱を取り入れたことですが、この茶室はそれは取り入れず、精神性を高める演出として、扉を扉と見せない工夫をこらしています。全体に侘ぶには整い過ぎている感もありますが、精神が高まりそうな空間が完成されています。

生活スタイルに合わせた「床の間のようなもの」

掛け軸の代わりに、外の緑を借景としています。軽やかな床の間です。炉の代わりに囲炉裏が切ってあります。和室というより、和のテイストをふんだんに取り入れた空間といったほうが良いかもしれません。畳床を用いることによって、借景までの風景を柔らかいものに仕立てています。床の間を持ってみたいけれど、敷居が高いと感じている人はこういった雰囲気だけ取り入れる方法は有効かもしれません。時代や生活スタイルにあったあり方ですね。

主人の全てがわかってしまう、床の間

床の間の壁が襖になっていて、襖をあけると、奥の階段が見える仕組みになっています。階段下は収納スペース。ここに主人の本やオブジェが並びます。どんな本が並ぶのか、どんなオブジェやグリーンを配置するのかによって、この家の主人を形成する小宇宙が見えてきます。もちろん見せたくない来客がきた時は、襖を締めることでオーソドックスな和室へと早変わり。遊び心のあるギミックです。全体の色調の明るく淡いものとなっていて、主人の人柄が浮かびます。
いかがでしたか?和の伝統を引き継ぐ床の間づくりや、主人の遊び心をメインとする床の間。どんなスタイルにしろ、住む人が何を飾るのかで家がどういうものなのかを見る人は知ります。床の間は、難しい約束事の上で成り立っているように思いますが、知的に愉しむ心からその約束事は出来上がっています。約束事どおりに作らなくても一向にかまいません。何を捨て、何を愉しみとするのか。その遊びが心の豊かさを作っていくのかもしれません。

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自分らしい家ってどんな家? 2016年12月10日投稿 住宅設計 自分らしい家ってどんな家?

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ライター/writer yumisong